9.福島から春爛漫の贈りもの 〈福島県福島市〉

福島県福島市には、春になると、梅や桜、ハナモモ、レンギョウ、モクレンなど、季節の花々が一斉に咲き誇る花見山公園があります。まるで夢のような美しさから桃源郷と呼ばれ、その光景を一目見ようと県内外から大勢の人々が訪れます。

花見山公園は、元々、阿部伊勢次郎さんという方のお山でした。

1935年に伊勢次郎さんは、養蚕農家から花卉農家になったのをきっかけに、自宅のお山の雑木林を開墾して花木を植え始めました。

1945年の終戦後、伊勢次郎さんは人々を少しでも元気づけたいと、開墾したお山を「花見山公園」と名づけ、1959年4月に一般の人たちにも開放しました。

 伊勢次郎さんが亡くなった後も、息子の一郎さんに受け継がれ、福島を代表とする花の名所として半世紀以上の間、愛され続けているのです。

柴犬マルと黒猫ミィとの出会い

さて、震災のあった2011年の春。風評被害などの影響により、訪れる人の数は例年よりも減ってしまいました。しかし、花見山の花々は変わらず見事な花を咲かせ、訪れた人々の心を癒しました。

この花見山にほど近い大蔵寺というお寺にある樹齢300年にもなるしだれ桜の下に、一匹の柴犬が寂しそうに座っていました。そこへスターリィマンと黒猫のミィがやってきました。

 「こんにちは! 私は黒猫のミィ。あなたは?」

 「ぼくは柴犬のマルさ」

マルはそう言うと、下を向いてしまいました。

 「マル、この辺は色々な花が咲いていてきれいね! さっき通った所は、山全体がお花畑のようだったわ」

 「あぁそこは、花見山公園って言うんだよ」

 「あとね、さっきウサギの形をした雪が残っているのを見つけたの」

 「あぁ、それは吾妻小富士の『雪うさぎ』。この辺の農家さんはね、雪うさぎが現れると苗代に種をまくんだ。だから、『種まきうさぎ』とも呼ばれているんだよ」

 「へぇ~そうなの! 面白いわね!」

 「それから吾妻小富士の向こうに見えるのが、会津を代表する磐梯山。さらにその先に連なる飯豊山脈を越えると、山形や新潟に繋がっているんだ」

 「わぁ! すごいわマル。とっても詳しいのね!」

 「あとね、横に長い福島県は、東から浜通り、中通り、会津って三つの地方に分かれていて、ここ福島市は中通りに入るんだよ。福島のことなら、ぼくに任せて!」

 「素敵ね。私、自分がどこで生まれたのか分からないし、色々な場所を転々としながら生きてきたから……。自慢のふるさとがあるマルがうらや

ましいわ」

 「そうだったんだ、ミィちゃんも大変だったんだね」

真剣な顔つきになったマルは、ミィとスターリィマンに語り始めました。

 「実はね、震災の後すぐに、大好きだった飼い主さんが遠くに行っちゃったんだ。幸いすぐに新しい飼い主さんに引き取られて、とっても可愛がってくれているけれど。なんでぼくも一緒に連れて行ってくれなかったのかなぁ……」

 「そうだったの」

 「でも今日、ミィちゃんとスターリィマンと出会えてよかった。ねえ来年の春にまた福島に遊びに来てよ!」

 「もちろん! それまで、お互い元気でいましょうね!」

再会を誓い合うマルとミィに、スターリィマンは友情の風船を渡しました。 それから毎年、ミィとスターリィマンは春になると必ずマルに会いに来るようになり、五年の月日が流れました。

震災から五年 マルの新たな決心

「マル、元気だった? また会えて嬉しいわ」

「ミィちゃん、今年も福島に来てくれてありがとう!」

「あの震災からもう五年も経ったのね。この間ずっと、福島の方たちは先の見えない不安を抱えたまま、様々な問題に悩まされ、たくさん苦しんだことでしょう?」

「うん、それでも福島を離れなかったみんなは、決めたんだ。この場所で、福島で生きていくってね。だって、かけがえのない大切なふるさとだもん!」

そう言ってマルは、スターリィマンの方へ駆け寄って行きました。

 「スターリィマン。ぼくずっとね、考えていたんだ。震災後、助けてくれたみんなに、どうやってありがとうを伝えられるかなって。でね、ぼくは犬だし、何も出来ないけれど、この温かい福島の春を届けられたら素敵だなぁって。お世話になった日本中、世界中の人たち、そして、他の被災地の人たちに福島の春を届けたい。スターリィマンの風船でみんなに春を届けて!」

スターリィマンは、やさしくほほえむと、福島の澄みきった美しい空に夢を叶える九つの風船を一斉に放ちました。眩しそうに嬉しそうに風船を見つめる、マルとミィとスターリィマン。

また来年も、その次の年も、ずっとずっとみんなが穏やかな気持ちで幸せな春を迎えられますように……と願いながら。

過去と未来をつなぎ、今を生きる私たちは、どんな時でも希望・元気・勇気・夢・愛・友情・未来・信頼・幸せを届け合い、この道を一緒に歩いていこう。

 愛する人たちのために、かけがえのないふるさとのために……いつまでも、いつまでも!

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