2.愛しき故郷よ 未来からの贈りもの〈宮城県気仙沼市〉

宮城県気仙沼市の南に位置する岩井崎海岸やお伊勢浜は、毎年11月から春先までの間、コクガンをはじめ、セグロカモメ、シノリガモなど、北からの渡り鳥たちが過ごす大切な越冬地になっています。

そこから少し離れた杉の木立の中に、一羽のコクガンがいました。 震災の日、本当は仲間の渡り鳥たちと北へ旅立つはずでしたが、 飛び立てなかったコクガンは、春、夏、秋とずっとひとりぼっちで スターリィマンが来るのを待っていました。海風が日増しに冷たくなってきた、ある晩秋の夜のこと。ようやくスターリィマンが、コクガンに会いに来てくれました。

 「スターリィマン! 本当に来てくれたんだね! 気仙沼に夢を叶える風船を届けに来てくれたんだね!」

 「もちろんだよ。あの大津波の夜。君の懸命な心の声が、流れ星になって届いたんだ。あれからずいぶんと待たせてしまったね。辛かっただろう。すまなかった」

 「ううん。スターリィマン。あの日ぼくは、仲間の群れと一緒に北へ向かうはずだったんだ。でも、飛び立とうとしたその瞬間、ぐらぐらぐらぐら~と大地が大きく揺れ始めて……びっくりして慌てふためく仲間たちを必死でなだめていると、カモメさんたちが、みんな大変だー!! 大津波が来るぞー!! って叫び出して……。

 しばらくすると、海が不気味なうめき声を上げながら、どんどんこっちに近づいて来た! 今まで見たこともない恐ろしい恐ろしい海。 荒れ狂った波は、あっという間にみんなみんな飲み込んで、気づいた時にはもう、あたり一面、瓦礫の山。おびえた仲間たちは一目散に北へ逃げて行ったけど、ぼくは、この場所が大好きだから! 心配で心配でどうしても飛び立てなかったんだ。

 それからね。ぼくは瓦礫の中から、みんなの大切なものを探して拾い集めたんだ。

 指輪、写真、めがね、ランドセル、運動靴、手袋、マフラー、帽子、お箸、おわん、ぬいぐるみ……いくら拾っても! 拾っても! 拾いきれなくて。悲しくて、悔しくて、涙が止まらなくて、そのうち体に全然力が入らなくなって、途方に暮れて動けなくなった。

 それからずっとずっと、この杉の木立の中で、毎晩、毎晩、お星様に祈りながらスターリィマンを待っていたんだ」

スターリィマンはうなずくと、何も言わずにコクガンを抱きしめました。

 「今ぼくたちがいるこの辺りは、明治29年の明治三陸地震で大津波がやって来た時に、 高い堤防が建てられた所なんだよ。 だから、みんな安全なんだって思って、どんどん家や建物が建てられていたって、お祖父ちゃんが教えてくれた。あとね、昔々の江戸時代の頃は、気仙沼湾内の地域の農業・漁業・林業の産業をつなぐ舟の渡り場があって、とっても豊かに栄えていたんだって。

 ぼくは今年、初めて春、夏、秋と気仙沼で過ごして、気仙沼のみんなのことがよくわかったんだ。この海と共に生きているかって、ふるさとを愛しているかって、どれだけ誇りを持っているかって。

 気仙沼のみんなは、大切な人や大切な物を奪われて、とても辛いはずなのに、いつも温かい笑顔で、人情が厚くて、本当にやさしくて、強いんだ!

 気仙沼は、ぼくらのご先祖さまからの大事な越冬地。ぼくらにとっても、かけがえのないふるさとなんだよ。 今年も越冬に、仲間たちが気仙沼に戻ってきてくれるといいなぁ…」

ふるさとを愛するコクガンの願い

 「コクガンさん、あそこに見えるのは島かい?」

 「うん。気仙沼大島っていうんだよ」

 「とっても近くに見えるんだね」

 「気仙沼大島は、移り変わる気仙沼の風景を、ずっとずっと変わらない姿で見守ってくれているんだ」

スターリィマンとコクガンが、気仙沼大島を見つめるその先に、無数の黒い点々が見えてきました。

 「くわぁわぁ……帰って来たよ! くわぁわぁ……帰って来たよ!」

 「あぁ! 仲間たちが元気に帰って来た。良かった! 良かった! みんな! お帰りなさい! お帰りなさい!」

今年の夏のはじめに生まれた子どもたちも、初めて訪れた気仙沼の空を一緒に仲良く飛びまわっています。「お帰りなさい!」「ただいま!」と、みんな嬉しそうに再会の喜びを交わし合っています。

 「スターリィマン。冬が過ぎて、春になって、仲間たちがまたここを離れる時に、みんなに夢を叶える九つの風船を託したい。ぼくの代わりに、気仙沼の大空いっぱいに、未来を輝かす幸せの贈りものを届けてもらいたいんだ」

 「コクガンさんの代わりなんていないよ。誰よりも気仙沼を愛する君が届けるんだ。 さぁ、勇気を出して。君なら必ず飛べるはずだよ」

2012年の春がやって来ました。 コクガンは、仲間たちと一緒に元気よく飛び立ちました。

 「スターリィマン、ありがとう! また気仙沼に会いに来てね!」

 「コクガンさん! 気仙沼の皆さん、どうかお元気で!」

それから、毎年冬が近づくと、コクガンは仲間たちや家族と一緒に気仙沼に帰ってきました。愛しきふるさとの未来をつなぐ子どもたちの輝く笑顔に囲まれながら。

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